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アコーディオニスト・佐藤芳明のニューアルバム発売決定

[ アルバム情報作品解説特別インタビュー ]

 


 近年は、椎名林檎の作品やステージへの参加でも知られる、アコーディオニスト・佐藤芳明が、このほどニューアルバムを8月5日(水)にリリースします。
 タイトルは『Cinq Lignes』で、その意味は"五本線"。収録される6曲のうち、冒頭からの5曲が、佐藤のアコーディオンともうひとりのミュージシャンが奏でる楽器による、1対1の演奏です。そして最後は、佐藤による独奏によって締め括られます。
 まさに"心のプリーツに入り込む"、佐藤芳明のアコーディオンの音色に、どうぞ耽溺してください。全国のレコード店でお求めいただけます。



佐藤芳明 ニューアルバム

『Cinq Lignes』



2015年8月5日(水)リリース
1,500円(税抜) POCS-21055  (kro-55555)

[収録曲]
1 井桁  3:24
  パーカッション相川瞳と
2 眠る鳥  6:23
  ヴァイオリン壷井彰久と
3 5533  4:32
  ギター鬼怒無月と
4 隙間  5:13
  ピアノ田中信正と
5 Baron  5:17
  ベース鳥越啓介と
6 時間と距離  1:14
  佐藤芳明ひとりで

全作編曲及びアコーディオン 佐藤芳明

recording & mixing mastering engineer 種村尚人
assistant engineer 阿部博
recording 2015年5月@studio Dede
mixing & mastering 2015年6月@studio Fine

ad & design 木村豊 Central67
cover photograph太田好治
hair&make up てく乃

 

 

プロフィール
佐藤芳明 / Sato Yoshiaki

国立音楽大学在学中に独学でアコーディオンを始める。
1995年〜96年、パリの C.I.M.Ecole de Jazz に留学、アコーディオニスト・Daniel Milleに師事。
Pot Heads、佐藤鈴木田中といった自身のリーダーバンドを持ちながら、
森山威男グループ、Salle Gaveau、ガレージシャンソンショー等のバンドにも参加。
その他、ライブ、レコーディング、舞台音楽など、様々な現場で数多くの仕事をこなし、
国内外を問わず、ジャンルを越えて幅広く活動。
近年は、椎名林檎の作品やライブにも数多く参加している。
既存のアコーディオンのイメージにとらわれない独自のサウンドを目指す。

オフィシャルページ「佐藤芳明 蛇腹活動報告」

 


 

作品解説

 日本では現在、cobaを筆頭にたくさんのアコーディオン奏者が活躍しているが、ありとあらゆるジャンル/タイプの音楽を自在にこなすという点において佐藤芳明の右に出る者はいないはずだ。ジャズを中心にタンゴ、プログレ、クラシック、様々な伝統音楽、そしてJポップから演歌にまで至る日本のポップ・ミュージック。レコーディングやライヴでの活動キャリアの守備範囲は、驚くほど広範である。まさに万能のアコーディオン奏者と言っていい。
 そんな佐藤の演奏家/作曲家としてのヴァーサタイルな能力が遺憾なく発揮されたのが、今回登場した2枚目のソロ・アルバム『Cinq Lignes』(五本線)である。
 佐藤は一昨年、初ソロ・アルバム『対角線』を発表しているが、それは、ほぼ全曲がアコーディオンの独奏曲だった。そして今回の新作は、全6曲中5曲が、様々なゲストと佐藤のデュオ演奏となっている。
 コラボ相手は順に、パーカッションの相川瞳、ヴァイオリンの壷井彰久、ギターの鬼怒無月、ピアノの田中信正、ベースの鳥越啓介。全員、佐藤が様々な現場で共演してきた、気心の知れた仲間ばかりであり、「この曲は、この人とやればより面白くなるだろう」(佐藤)という視点で選ばれている。
 佐藤自身が書き下ろした楽曲群の曲調は、もちろん多種多様。1曲として似たものはない。弾むリズムと鋭角的に切り込むメロディが半ば即興的に絡み合う相川瞳との「井桁」、不思議なエキゾティック・モードに包まれた壷井彰久との「眠る鳥」、チェンバー・ジャズ・ロックぽい鬼怒無月との「5533」、東欧~カフカス系のメランコリックなメロディとフランス印象派的な色彩感が美しい田中信正との「隙間」、小粋なやりとりがフレンチ・ジャズ~マヌーシュ・スウィングにも通ずる鳥越啓介との「Baron」、そして本作が前作『対角線』での成果を踏まえた作品であることを再確認させてくれる抒情的なアコーディオン独奏曲「時間と距離」。
 卓抜した演奏技術や多彩なサウンドの素晴らしさだけにとどまらず、佐藤がアコーディオン奏者としてこれまでにどういう道のりを経てきたのか、何を習得し、何を大切にしてきたのか――つまり、音楽家としての彼の本質がしっかりと伝わる作品に仕上がっていると思う。
 国立音大に在学中、それまで全く縁のなかったアコーディオンに魅せられた佐藤は、卒業後パリに留学し、ジャズ・アコーディオン奏者ダニエル・ミルに師事した。その後今日に至るまで音楽家としての佐藤の活動の指針となってきたのは、「一音一音にヴォロンテ(意志) を込める」というミルの言葉だったという。そして、その言葉を胸に彼は常に「じゃあ自分ならどうするんだ?」という自問を続けてきた。
 演奏技術や器用さや音楽知識を超えた、確かなヴォロンテ(意志)に支えられた自分なりの音と語り口。佐藤が一貫して追求してきたものが、このアルバムには詰まっている。

松山晋也(音楽評論家)

 

佐藤芳明特別インタビュー

じゃあ自分ならどうするんだ?

            ――万能のアコーディオン奏者、佐藤芳明


取材・構成=松山晋也(音楽評論家)

 アコーディオン奏者として椎名林檎等さまざまなアーティストの活動をサポートしてきた佐藤芳明。cobaを筆頭に、現在日本ではたくさんのアコーディオン奏者が活躍しているが、佐藤ほど、ありとあらゆるジャンル/タイプの音楽を自在にこなす者はいない。まさに万能のアコーディオン奏者である。
 その佐藤が8月にリリースする2枚目のソロ・アルバムが『Cinq Lignes』(五本線)。一昨年に出た最初のソロ・アルバム『対角線』がほぼ全曲、アコーディオンの独演集だったのに対し、今回は全6曲中5曲が、様々なゲストと佐藤のデュオ演奏となっている。
 ここでは、佐藤がどういう音楽的背景やキャリアを持ち、この新作をどのようなヴィジョンの下で作ったのかを語ってもらった。

              ▼

――佐藤さんは、国立音楽大学在学中に独学でアコーディオンを始め、その後1995~96年にパリに留学し、ジャズの有名アコーディオン奏者ダニエル・ミル(Daniel Mille)に師事されたんですよね。
●アコーディオンを始めたのは、国立音楽大学の音楽教育科に在籍していた20歳の時です。理由は、ヘソ曲がりだったから。人が聴いてない音楽、人がやってない楽器に興味があった。学校の図書館で、現代音楽をアコーディオンで弾いているCDを偶然何枚か聴き、それだったら僕の好きなジャズをやってるアコーディオン弾きもいるだろうと思って調べてみると、フランスのリシャール・ガリアーノがいた。ジャズは中学ぐらいから好きで、大学時代にはバーでピアノを弾いたりしたこともあった。坂本龍一の『音楽図鑑』に入っている曲「A TRIBUTE TO N.J.P.」がきっかけでジャズに興味を持ち、マイルズ・デイヴィスやビル・エヴァンスから始めて…。で、自分のやりたかったこと、好きだったことをアコーディオンで試してみたいと思った。そこで大学卒業後、パリの C.I.M.Ecole de Jazz というジャズの専門学校で、ガリアーノの弟子のダニエル・ミルに師事したわけです。

――帰国後、アコーディオン奏者として活動を開始したわけですが、私が佐藤さんを知ったのは、シンガー・ソングライターの山田晃士さんとのデュオ〈ガレージシャンソンショー〉がきっかけでした。見世物小屋的猥雑さを全面に出した戯作趣味歌謡シャンソンが一部で熱狂的ファンを獲得していた。パリ帰りということでのシャンソンつながりだったんですか。
●いや、パリ時代もシャンソンやミュゼットには特に関心はなかった。あのユニットは、僕にとっては、山田さんがバンドでやっていた曲をアコーディオン1台でどう表現できるのか、どう引き算できるのかという点が特に面白かったし、勉強にもなった。歌手の後ろでいろいろ自由に工夫できる。しかものど自慢の伴奏とかじゃない形で。

――ダニエル・ミルから学んだものの中で特に大きかったのは?
●最初のレッスンでの会話を憶えています。「なぜ、俺に師事するのか?」「ガリアーノは沢山の音で表現する。あなたの演奏は音数は少なくて最初何をやっているのかわからなかったけど、すごい説得力があると感じた。その理由を知りたくて、ここに来た」「俺はガリアーノのように華麗には弾けない。じゃあどうするべきかと考え…一音一音にヴォロンテ(意志) を込めようとしてきた」。この言葉は非常に印象深く、その後の僕の演奏にずっと影響を与えていると思う。これまで一貫して守ってきたのは、「じゃあ自分ならどうするんだ?」という自問、かな。

――今回の新作は様々なデュオ演奏を集めたものになっていますが、ありとあらゆるジャンルの音楽をやり、たくさんの人たちと共演してきた中で、この5人を選んだ理由や、各々の魅力について語ってください。
●順番に挙げると、パーカッションの相川瞳さん、ヴァイオリンの壷井彰久さん、ギターの鬼怒無月さん、ピアノの田中信正さん、そしてベースの鳥越啓介さん。全員、いろんな現場でよく顔を合わせる人たちばかりですが、この曲でこの人とやればより面白くなるだろうという視点で選んでいます。

――まず、1曲目「井桁」の相川瞳さんについて。
●彼女は、野放しにすればするほど面白い演奏になり、未知数の部分が大きい。ある程度の骨組みに沿って、お互いにキャッチボールをしているうちに、どんどん面白くなる。「井桁」では、そういう彼女の魅力を引き出したかった。普段はマリンバなど鍵盤系のパーカッションを担当することが多いけど、今回は鍵盤系ではないパーカッション・セットでの録音をお願いした。一応譜面を書いて渡したけど、できるだけそれは見ないで自由に演奏してもらいました。

――2曲目「眠る鳥」の壷井彰久さん。
●今回の収録曲はどれも楽器を想定して書いたものではないけど、この曲はちょっと東欧ぽいエキゾティックな感じがあるし、ヴァイオリンとのデュオが合うと思った。ヴェトナムの女性歌手フン・タンの大好きな曲が元ネタになってるんだけど、そういう感じの曲を面白がってくれるヴァイオリン奏者だったら、やはり壷井さんかなと。

――3曲目「5533」の鬼怒無月さん。
●これまでもいろんな編成でやってきた曲です。僕も参加している、鬼怒さん率いるサル・ガヴォでもたまにやっているし。鬼怒さんは、いつも面白がっていろいろ積極的に工夫してくれる研究熱心なギタリストですね。彼は何でも聴いているし、貪欲に吸収してゆく。自分のフィールドにこだわるギタリストもいるけれど、彼は偏ってない。僕は、鬼怒さんのそういう姿勢が大好きなんです。

――4曲目「隙間」の田中信正さん。
●ノブリンとは、ジャズ・ドラマー森山威男さんのグループでずっと一緒にやっている仲間であり、今回の5人の中でも一番頻繁にデュオをやってきた相手です。パリから帰国してすぐの頃、彼の作品をたまたま耳にしてショックを受けた。こんな人が日本にいるんだと。それ以来20年近くずっとファンというか、本当に尊敬している大好きなピアニストです。「隙間」では、途中でかなり自由になる部分があるけど、そこで一緒にやりとりができる人ということで、やはり真っ先に彼の顔が浮かんだ。彼とは、似た部分が少なくない。変拍子ものが好きだし、ハーモニー感覚もとても個性的ですし。
お互いにそれを面白がり、ウマが合うというか、共振する部分が多い。

――5曲目「Baron」の鳥越啓介さん。
●ベーシストでは、一番長いつきあいかな。彼とは、帰国後すぐにジャム・セッションの現場で出会い、それ以来ずっと。今はサル・ガヴォでも一緒にやっている。彼は基本的にウッド・ベースなんだけど、エレキ・ベースのような音の立ち上がりで弾くこともできて、ファンキー系の曲も平気でウッドでやる。でも実際、ジャンゴ・ラインハルト好きだったりとか、守備範囲はとても広い。僕が持ってゆく変な曲も面白がってやってくれる。ちなみにこの「Baron」という曲は、パリ時代に書いた作品で、曲名は下宿先で飼われていた犬の名前からとっています。

             ▼

――前作『対角線』は、1曲を除きアコーディオンの独演集でしたが、その意図は?
●それまでずっと、ソロ演奏の録音はできるだけ避けていたんです。ハードルが高いというか、自分の理想どおりになかなか演奏できないので。でも、自分から動かないと前に進めないと思い…つまり、自分で殻を一つ破りたかったんです。前作『対角線』があったからこそ、この2作目も作れたんだと思う。

――近年椎名林檎さんのサポートをやっていますが、その体験から得たものは?
●昔は、仕事以外ではJ-ポップはあまり聴かなかったし、彼女のチームに参加するまでは、作曲や編曲作業の現場を目の当たりにする経験もあまりなかった。自分も加わっての、進行現場でのそういう作業がいい勉強になっている。表現の引き出しが増え、対応の柔軟性が高まったと思います。ちなみに、椎名林檎さんが昨年リリースしたセルフ・カヴァー・アルバム『逆輸入』の中の「幸先坂」という曲は、椎名さんと僕のデュオで録音したのですが、そのイントロでは、『対角線』の収録曲「Your Son」が使われています。

――現在、日本ではミュゼット系をはじめたくさんのアコーディオン奏者がいますが、佐藤芳明ならではのチャーム・ポイント、強みは何だと思いますか。
●僕は常に、他の楽器の演奏者と対等に演奏や話ができるようなアコーディオン奏者を目指してきた。アコーディオン奏者というのは、往々にして、アコーディオンを使うべき音楽については精通しているけど、そうでない音楽に関しては無関心なことが多い。僕は、アコーディオンだからこういうのは無理だよね、みたいな状況にはしたくない。こういうのができないかな?と投げかけられた時、できないとは絶対に言いたくない。だからこそ、サルサもフラメンコもファンクも、インドやブルガリアの音楽も、なんでも勉強しなくてはならないと思ってきたし、そのことを面白がっている。アコーディオンという楽器の枠組みや常識と関係なく、遠慮なしに扱われることがうれしいし、誇りでもあるんです。

――最近、バッハ作品を演奏するライヴ・シリーズをおこなっているのも、そういった思いの一環ですね。
●バッハのライヴ・シリーズを始めたのは昨年(2014年)。クラシック系アコーディオン奏者のバッハ演奏にはずっと憧れ、とてもかなわないと思いつつも、少しでも近づきたいと思ってきた。彼らのバッハ演奏、あるいは楽器の鳴らし方からは学ぶべきところ、盗むべきところがたくさんあり、とても勉強になります。今後はバッハだけでなく、たとえば木管五重奏とのアンサンブルなどもやってみたい。とにかく、常に「じゃあ自分ならどうするんだ?」と自問しながら。